高円寺の魔女
魔女は叫んだ。
「私は、あんた達とたくさんセックスをしてきた。それから、あんたたちは気持ちいいって言って、それで終わりでしょう?そんなの寂しいでしょう。」
去年の夏、ぼくは東京にいた。
日暮里から電車で高円寺へ、みうらじゅんが「日本のインド」と書いた高円寺をぶらぶら散歩していた。交差する商店街に古着屋、喫茶店、多国籍料理店、怪しい水タバコ屋、が立ち並び、老若男女が交差する。
夕暮れ時、純情商店街から外れて中通り商店街に入って、通りを抜ける少し手前に床屋の赤、白、青のクルクルが見える。床屋の正面のベンチに人が座っている。一人ぼっちで何か叫んでいたけれど、まだ聞き取れない。髪が長くボサボサで、魔女みたいな女だった。周りには誰もいなかった。叫ぶ言葉がだんだんとはっきりしてきた。
「私は、あんた達とたくさんセックスをしてきた。それから、あんたたちは気持ちいいって言って、それで終わりでしょう?そんなの寂しいでしょう。」
衝撃的だった。出で立ちはそれを増幅した。チラッと振り返ったけれど、怖さを感じてほとんどの言葉は背中で聞いた。
その叫びは不思議と自分の内側の寂しさと共鳴した。声がずっと頭から離れなかった。
最近、藤原新也の「東京漂流」を読んでいたら、ふと記憶が浮かんだ。